「若者の車離れ」はメディアを筆頭に2000年に入ってから言われ始めた言葉である。若い世代の購買行動は多様化している一方で、将来の不安から貯蓄を重視する傾向にある。
若者の車離れは印象論や思い込みでよく論じられてしまうテーマのひとつである。そのため、間違った情報によって車に関する若い世代の「考えていること」がわからなくなってしまうことも多い。
そこで今回は、若者の○○離れのひとつである車離れをテーマに、「なぜ、若い世代が車を買わないのか?」について考察していく。
車をこれから購入しようとしている20代の若者や、若者の購買行動の変化を読み解きたいビジネスパーソンにぜひ参考にしていただきたい。
INDEX
そもそも、「若者の○○離れ」が多すぎる問題
「若者の○○離れ」には様々な分野において言われて久しい言葉である。ざっと世の中を見渡してみるだけでも、「若者の○○離れ」には数々のレパートリーがある。
代表的な例としては下記のような「○○離れ」をよく目にすることが多いのではないだろうか?
- TV離れ
- 酒離れ
- マイホーム離れ
- SNS離れ
ほかにも枚挙にいとまがないほどの「○○離れ」がメディア等でよく扱われている。
これまで長く親しまれてきたものや、一定の価値観の中で当然のこととして見られてきたものから離れる「若者たちのライフスタイル」は、そうではない世代の人々から見て奇異に映るのではないだろうか?
ただし、ここまでの若者への印象だけで「若者はほとんどのことに興味がない」などと浅はかな分析をするのは間違っている。
ご存のように、実質賃金が安く抑えられる傾向にあり、一人ひとりの趣味趣向も分散化している現代社会においては、既存の価値観が崩れ去り新しい価値観が生まれてくることは必然である。
現に「若者の○○離れ」という言葉は、最近新たに出てきた新世代の若者たちに向けて使われたのが初めてではない。初出は1970年代までに遡る。
いちばん古い記述では1972年8月号の『図書(岩波書店)』に「若ものの活字離れの元凶は教科書だ!!」という文題が見つかります。
引用:46年前からあった「若者の○○離れ」と、今起きている「お金の若者離れ」 (1/3) – ねとらぼ
つまり、車離れに限らず、○○離れという言葉は昔から新しい世代=若者に向けたレッテル貼りの常套手段とも言えるのである。
「車を買うべきかどうか?」「若者はなぜ車を買わないのか?」を論じる前に、このようなレッテル貼りは昔から存在していることに留意しておきたい。
では、若者の車離れは実際に起きているのだろうか?
「若者の車離れ」は本当に起きているのか?
単なる印象論で話を終わらせないためには、事実として若者の車離れが起きているのかどうかを調査する必要がある。
日本自動車工業会が2017年度に実施した「乗用車市場動向調査」によると、自動車が非保有の10代〜20代が「車を買いたくない」「車をあまり買いたくない」と回答した割合が54%に達しており、今後も購入意向が低いことがわかる。
●車購入意向あり層は5割弱。
・購入意向が高いのは「既婚」「世帯保有あり層」と関心層とほぼ同じ層。
・買いたくない理由は「買わなくても生活できる」「今まで以上にお金がかかる」
「クルマ以外に使いたい」。特に車の必要性が低いことが理由。
引用:乗用車市場動向調査
理由としては、買わなくても生活できるという必要性の低さ。また、趣味趣向などの変化によると考えられる「車以外に使いたい」という意見。そして、経済的側面である「今まで以上にお金がかかる」が挙げられる。
データとして若年層が車を必要としていない割合が多いことがわかる。
車が移動手段として欠かせないものである地方在住の若年層等の場合は必要性が高まるが、それも今後の自動運転技術と導入により問題は解決されていくだろう。
「若者の車離れ」が論じられるときによくある意見
若者の車離れについて論じられるときに、よく出てくるのは下記2つのポイントにおける議論ではないだろうか?
- ほしいと思えるようなブランド・デザインの車種が開発・販売されていない
- 若者にとって車を購入したり、維持したりするための経済的余裕がない
1の観点に関しては、たとえば一昔前と比較し環境基準や衝突安全基準への配慮や燃費効率を重視した車が求められてることが多くなったことにより、車に創造性がなくなった…という見方をすることもできるかもしれない。
しかし、ほしいと思える機能を持つ商品・サービスやブランドはどんな時代でも必ず求められるもの。
たとえば、カーシェアリングや自動運転技術が今後さらに普及していくと、車という工業製品は形態を変えて人々の生活をより良くしていくだろう。
時代の流れや若者の趣味趣向の変化を読めていないと、「自動車メーカーのブランディング」「プロダクトのデザイン」といった問題提起に終止してしまう。
シンプルに考えれば、「移動手段としての車がどのように若い世代に使われていくのか?」という問題と、「車を購入したい層はどのようなユーザーなのか?」という問題は切り離して考えなければならないのである。
では、若者は経済的な理由だけで車を購入しないのか?
次は、若者がなぜ車を購入しないのかについて考えてみたい。
若者が車を購入しない原因は「人生に求めるものの変化」
若者が車離れを引き起こす理由はシンプルである。それは、「若者の消費の消極化」である。
すでに様々な場所・テーマで話されていることであるが、先の資料で見た「乗用車市場動向調査」によると、必要性を感じていないことから車を購入しないという人々が一定数いることがわかる。
車については経済的負担感を感じているものの利便性向上のメリットも認識。
「ガソリンや駐車場代など維持にお金がかかる」「購入するのに多くのお金がかかる」
「重いものでも楽に運べる」「行動範囲が広げられる」がイメージの上位。
引用:乗用車市場動向調査
保有者でさえ、車に対して経済的負担を感じている。しかし、負担しつつも利便性があることによってカバーリングできている状態である。
第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部「LIFE DESIGN REPORT 20代の『変えるのに買わない』理由を探る」では、12,000人のアンケートを実施する中で、若者の購買行動の変化について言及している。
20代の学生においても安定志向や将来不安の意識が高いことである。これから職を得て自分の可能性を試していく年代であるにもかかわらず、約8割が「将来を予測できるような安定生活をしたい」、6割近くが「将来のことを考えると、今、お金を使うこと全般に積極的になれない」としている
引用:「LIFE DESIGN REPORT 20代の『変えるのに買わない』理由を探る」
若者世代は購買行動に消極的であり、将来への不透明性への不安を抱えて日々の生活に関して必要最低限のお金しか使わない志向が強い。
ただし、一方で自分がこだわりのある部分には、積極的にお金をかけたい」と考えている割合は、全年代で6割〜7割だが20代前半の学生、20代後半〜30代前半の女性に多いとされている。
また、「安心・安全のためにお金を使う」と回答している割合が20〜24歳(学生、学生以外)で平均5割以上を占めていることもわかる。
安心・安全を買うといっても、人により様々なものがあるため一概には言えない。ただし、より提示の欲求が満たせる部分から購買行動が出発していることは一目瞭然であるといえないだろうか。
つまり、車をステータスとして購入したり、必要ではないがデザインに惹かれて購入したいと考える若い世代は確実に減少しているのである。
では、どのような場合若者は車を購入するのであろうか?
若者が車を購入するのは「必要なとき」だけである
若者が車を買わない理由は実にシンプルである。それは結局のところ、現在車を購入して維持管理できる能力の欠如にあるわけではなく、むしろ将来に向けての貯蓄を思考した結果なのである。
つまり、現状に対して自分のこだわりの強い部分以外にはお金をかけない傾向にある。車は購入する以外にも様々な利用方法があるため、購入にまで至らないのは当然の帰結ではないだろうか。
また、今後はカーシェアリングや自動運転技術の進展・実用化に伴いさらに車の機能を手軽に利用できる土壌が整いつつある。
「若者が車を購入するためには〜…」という議論自体が、すでに時代遅れのテーマなのかも知れない。